8月10日に行われた1日体験入学での研究室展示を終え、自宅へと帰省した私は、すぐさま旅支度を始めた。毎年盆休みは、静岡から遠方の九州まで車を走らせ、親戚の家に遊びに行く。そして、福岡県・博多を拠点に周辺県を巡り回る。今年は特に楽しみにしていた。大分県、玖珠川渓谷のキャンプ場に逗留する計画があったのだ。
山はいい。生命の故郷であり、様々な光景を見せてくれる。木道を歩けば木々の香りに包まれ、耳を澄ませば鳥のさえずりや谷川のせせらぎが聞こえてくる。時折、長閑なイメージとは一変し、気候変動の激しい山は繽紛たる姿をみせる。今年のキャンプでも初日は突然のスコールに見舞われた。しかし、暫く経つと先程までの狂飆が嘘かのように、以前の悠々とした静けさを取り戻す。私は、そんな変遷を繰り返す山々に惹かれてやまない。
「三日月の瀧」は、瀧の落ち口が弧を描く三日月のような形状をしていることから、そのように呼ばれる。ナイアガラの滝のように平坦な岩盤から川が一箇所で流れ落ちる場景は、荒々しく壮麗であった。一年ぶりに再会した親戚と共に、私は大自然に浸りながらカヌーや渓流釣り、パークゴルフといったサマーレジャーの数々を心行くまで味わった。 |
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「カヌーの上で、私はここ半年間の出来事を回顧していた。高専5年の前半、就職や進学、人生を左右する闘いの殆どがこの期間に凝縮され、慌ただしく過ぎていった。そうした中、7月、私は第一志望の大学に無事合格した。そこは、地球科学の分野を専門とする理学部である。なぜそのような進路選択をしたのか。私は、以前から海底資源の開発研究に携わりたく、関連分野の情報を集めていた。その最中、地球科学の存在を知り、資源に関する知識を深める為、この分野を専門的に学ぶ必要があると考えたからだ。一方、高専で学んだ技術を資源開発の現場でも活かしたいと考えていた私の志すところは、一般の研究者でも技術者でもない。両者の橋渡しを担うフレキシブルな科学技術者の存在だ。無論、容易に成就できるものではない。そのため高専での残り半年間、ベストを尽くし、力を蓄える予定だ。今までは、卒業研究の傍ら自身の進路に向けた勉強や面接練習に奮闘してきた。その中で何度も挫折を経験したが、反省し乗り越え、半年前と比べれば着実に力は付いてきている。バドルで掻く水の抵抗のごとく、今後も困難は幾度となく訪れるだろう。その度に落胆するのではなく、成長のきっかけとし、先を見据えて様々な要求に応えていく力を養わなければならない。そう心の中で思いながら、遠い岸を目指し、私は再び舟を漕ぎ始めた。研究が本格始動する、ここからが正念場だ!玖珠川の渓流にどっぷり浸り、心身をリフレッシュさせ、そう決意を固めた。
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