卒業研究の紹介

卒業研究の紹介

近年、振動工学は、コンピュータ産業の発展に伴い目覚しい発展を重ねてきている。特に地震の多 い日本・アメリカを中心とした地震工学での発展は、目をみはるものがる。しかし、1995年1 月に生じた兵庫県南部地震では、多くの建築・土木建造物に被害が確認された。また、建築物内に 設置されている冷蔵庫、書庫などの家具類、墓石、立方型の石材遺跡、さらには生産企業における 工作機械やコンピュータシステムをはじめとする剛体建造物が転倒したり、移動することによる被 害報告も多く、この問題の重要性改めて認識されている。特にコンピュータの転倒による制御シス テムの麻痺は大規模の二次災害を呼び起こす恐れがあるため、耐震装置の開発が活発に進められて いる。しかし、剛体ブロック型建造物そのものに関する研究は数少なく、まだ多くの課題が残され いる。剛体ブロック型建造物のロッキング振動に関する研究は1960年代から多くの研究者によ って行われて来ているが、非常に複雑な挙動を示すため、実験が難しく実験による研究報告も数少 ない。また、モデル化による応答解析においてもその挙動が非常に複雑な挙動を示すため、実ロッ キング振動系に接近したモデルを作ることが難しく、ほとんどの研究では、理想化・単純化による 簡略モデルによる応答解析に止まっている。すなわち、これまでのほとんどの研究では、構造物と そのベースが剛体であり、双方向の接触面での摩擦力は十分大きく滑り運動は起こらないという仮 定の基で解析を行っている。中には滑り運動やブロックとベースの弾性力考慮したモデルを作り、 応答解析を行っている研究報告もあるが、実験によるロッキング振動特性の評価や摩擦力と弾性力 がロッキング振動系に与える影響の評価やそれによるロッキング振動特性の変化までの考察は行わ れておらず、課題として行われている。また、兵庫県南部地震の例から経験しているように、実際 のロッキング振動系では、水平だけではなく水平・垂直の二次元的励振を受けている場合が多い。 この垂直方向の入力はブロックとベースの衝突時の挙動に大きく影響するため、二次元励振を受け るロッキング振動系の応答特性の把握はブロック型建造物の耐震設計で最も重要な課題となってい る。 これまでのロッキング振動実験と線形化ロッキングモデルを用いた応答解析の結果から高励振振 幅、高励振周波数では、ブロックのロッキング振動はベースとの衝突時の滑り運動を伴うので、線 形モデルでは正確な応答再現ができないことを明らかにしている。特にその滑り運動は、ブロック のロッキング振動に大きく影響し、ブロックの安定条件にも影響していることを明らかにしている また、ロッキング振動の応答周波数では、衝突時のエネルギー消耗率である反発係数だけではなく ブロックとベース間の摩擦力とブロックとベースの弾性によるインパルス力も考慮しなければなら ないことが明らかになっている。 そこで、本研究ではこれまでの研究結果を踏まえ、二方向励振によるロッキング振動実験結果を 詳細に分析し、それに基づいて非線型ロッキングモデルを作り応答解析を行い、ロッキング応答特 性を評価する。また、それらのパラメータがロッキング振動系に及ぼす影響の考察も行い、ブロッ ク型構造物の耐震設計上考慮すべき知見を知る。そして、最終的にはこれらの研究結果に基づき、 模擬地震波励振によるロッキング振動実験と応答解析を行う、各々のブロック形状に対する耐震安 定条件を定める。


本研究は、ロッキング振動、それに基づいたロッキング振動系のモデリング、応答解析の三つの 流れで進められる。 ロッキング振動では、図1に示すように、二つのレザー変位計を用いて各々変位計から測定され た水平変位をFFTアナライザーに出力させ、GPIBボードを通してデジタルデータをパソコン に送り、そのパソコンで水変位の差からブロックの回転変位を計算して出力させる計測方法を用い た。また、入力は水平と垂直方向の入力位相を合わせるため、断絶的な信号を加振機制御システム に送らなければならない。したがって、図2に示すように、信号発生器から同一信号を水平と垂直 の両方向に送っている。 ロッキング振動系のモデリングでは、二方向ロッキング振動実験考察結果に基づき、プラス側の 回転運動方程式、衝突、マイナス側の回転運動方程式の三つに分けてモデリングを行う。ここでは 特にブロックの衝突挙動に焦点を合わせて実験での衝突挙動を再現できるモデルにしたい。 応答解析では、ブロックの寸法比、摩擦係数、インパルス力、初期条件、入力波の位相などのシス テムパラメータの変化による応答特性の変化を一定のサンプリングで刻み、応答解析を行う。また 応答解析結果はブロックの安定条件、ロッキングモード特性の両面から考察を行い、応答特性を評 価する。 以上が研究の大まかな流れであるが、本8年度はロッキング振動実験結果の分析及び考察振動系 のモデリングを行う。また、そのモデルに基づいて応答解析を行い、モデルの信頼性を検証する。 そして、来10年度の予定としては、ブロックの寸法比や摩擦力、インパルス力などのパラメータ を変えながら応答解析を行い、各々のブロック形態に対する安定条件を定める。 応答解析では、衝突時に運動エネルギーの消耗率である反発係数(今回のモデルではブロックと ベース間のインパルス力も含まれる)を考えているため、回転変位が0になる時刻を正確に計算し 消耗分だけ運動エネルギーを下げて運動方程式の切り替えを行わなければならない。また、それぞ れパラメータを変化に対する応答特性の変化を調べるため、解析データが膨大な量になることが予 想されるので、計算速度の速い計算速度の速い高性能のコンピュータが必要となる。したがって、 本研究では、処理速度200MHz級のコンピュータが必要である。また、数値計算用のソフトと してはMATLABやSIMULINKが必要であり、数値計算結果を効率的に考察するためにデ ルタグラフとページメーカなどのソフトも必要である。