沼津高専 電子制御工学科
アーム調査報告書
MIRS9902-TECH-0010
改訂記録
版数 作成日 作成者 承認 改訂内容 提出先
A01 H12/1/18
河野丈志
河野丈志 初版
1.アーム

現在、自分たちの班が考えているアームの案では アームは片もちはりである。なのでアームの重量や長さが制限されてくる。またスイッチを押せるだけの力(強さ)も必要である。なので、

アームは曲げに強く、軽く、加工しやすいことが条件となる。

1-1.引っ張りに対する強さ(引っ張り強さ)
ものを引っ張ると、ものは複雑に伸びて切れる。ものの伸び方は小さい力のうちは弾性変形をし、伸びが引っ張った力に比例する(フックの法則)。しかし、引っ張る力を増やしていくとある力のところでその比例関係が崩れ、ものは伸びやすくなる。そしてそうなった後は引っ張り力を除いても、ある量伸びたままになってしまう。この残った伸びを塑性変形という。この伸びたままの状態はロボットにとって困るので材料に強さは、塑性変形が始まる力であると考えられる。

1-2.曲げに対する強さ(曲げ強さ)
ものを曲げることを想像すれば分かるように、曲がったものの内側は収縮し、外側は伸ばされる。つまり内側には圧縮の力が、外側には引っ張りの力が働いていることが分かる。上記の引っ張りの話からも分かるようにものが曲がったままになるのは大きな力がかかり塑性変形してしまったからである。ただ曲げの強さでは伸びのときには考えなかった断面形状が重要な要素になってくる。

1-3.断面形状の重要性 曲がったものの断面にかかっている力Fは次のように表される。

F=My/I
(Mは曲げモーメント、yは中立軸(曲げたときに変形しない面と横断面との交線)からの距離、Iは断面2次モーメント)

またこのことも成り立つ。

曲がりの程度=-曲げモーメント/(弾性係数×断面2次モーメント)
ここで弾性係数とは材料が決まると定数になる。したがって曲げモーメントが同じであれば曲がりの程度は、形状による定数によって決まる。ここで断面形状が円筒の場合と矩形の場合の断面2次モーメントの計算式を記す。(Sは断面積)
内径d1、外形d2の円筒の場合:
{1+(d1/d2)×(d1/d2)}S×S/{4π(1-(d1/d2)×(d1/d2))}
高さh、幅bの矩形断面の場合:
(1/12)(h/b)S×S
円筒の式から断面積が同じなら棒よりも肉圧の薄い円筒の方を使った方が強いアームを作れることが分かる。そしてこの性質を利用すれば円筒を使うことにより丸棒の半分の重さでありながら、ほとんど同じ強さのアームが作れることがわかる。。 また矩形の式からは縦方向の曲げに対しては同じ断面積でも、縦長の矩形の方が強いアームを作れることが分かる。ただ縦長すぎると腕が横方向にねじれてしまう、横方向バックリングがおきるので、そういう場合は断面形状がI字型にすればいい。また補足だが断面積が同じで長さも同じならその二つのものの質量(重さ)は同じなのでマシンを軽く、強く作る上で断面形状の重要性がよく分かると思う。

1-4.余分な部分を除いて軽くする。
矩形断面の場合、アームは縦長に使うのがよいことが分かりましたが、まだ工夫する点があります。それは曲げモーメントの部分です。さきほども書いたように

曲がりの程度=-曲げモーメント/(弾性係数×断面2次モーメント)
が成り立っています。ただ曲げモーメントは場所によって異なり、それは曲げモーメントが次の式で表されることからも分かります。
M = Fx (Mは曲げモーメント,xは距離,Fは力)
すなわち力Fのかかっているところでは0であり、それから遠ざかった位置の曲げモーメントほど線形的に大きくなる。そして曲げたものの断面の中でその断面に働くせん断力が0になるところが最も曲げモーメントが働くところである。 ここでアームの設計をする場合、1番よい設計はすべての部分に同じ大きさの力が働けばいいことが分かる。なぜならアームが曲がったままになってしまったりする時の力は同じ材料なら同じだからである。こうすることにより、無駄な質量を減らし、かつ十分な強さを得ることが出来る。
この考えに沿って考えるとアームのどこの部分でも曲がりの程度を同じにすることになります。矩形の場合の曲がりの程度の式より
曲がりの程度 ∝ xF/(bh3)
となる。これを一定にするには
bh3 ∝ x
となる。だから例えばhを一定にすれば、b ∝ xより先の尖った三角形にすればよいことになります。こうすれば相似の関係からb ∝ xが満たされます。bを一定にした場合も同じように考えられます。こうして重量を約半分に減らすことが出来ます。東京タワー、釣竿などもこのような考え方から先細になっているのです。十分な強度を持たせた上で、重量を軽くすることは大変重要なことです。

2.軸受け、ベアリング
次に考えることとしてアームの取り付け部分、軸受け(ベアリング)のことです。軸受けは車輪やハンドルのような回転体の軸を受ける部分のことです。軸受けは機械にとって重要な要素の一つです。そしてこの軸受けの設計が悪いとマシンやアームがうまく動きません。MIRS用、ロボコン用ロボットは使われる期間の短いものでは、軸受けでの1番の問題は摩擦抵抗である。そこで摩擦のことを以下に述べる。

2-1.摩擦
・摩擦係数
摩擦には滑り摩擦と転がり摩擦とある。どちらも場合も物体を動かすためにはある大きさの力が必要になる。この力は摩擦抵抗、つまり摩擦力と同じだけ必要となるのである。これらの摩擦力は次の式で表される。

滑りの場合 摩擦抵抗 = μN (Nは垂直荷重)
転がりの場合 摩擦抵抗 = μ'N/r (rは回転体の半径)
これらの式から摩擦抵抗は垂直荷重Nのみの予って決まることが分かる。 このμは摩擦係数と呼ばれ、接触している物体同士の材質、表面の粗さ、潤滑剤があるかどうかにより異なった値となる。また転がり摩擦係数は滑り摩擦係数よりずっと小さい値である。

・静止摩擦と動摩擦
摩擦を考える上でもう一つ重要な条件が止まった状態から動くか、動きつづけている状態なのか、ということです。止まった状態から動くときの摩擦係数を静止摩擦係数、動いている上体でのそれを運動摩擦係数と呼びます。一般に

運動摩擦係数 ≒ 静止摩擦係数/2
程度です。すなわち、止まっているものを動かすには大きな力が必要だが、動き始めた後は半分くらいの力で運動を継続できるということです。

・軸受けの設計
【軸受けの配置】
軸受けでも滑り軸受けと転がり軸受けとありますが、大きさを決めると摩擦抵抗は荷重にのみ比例します。今2つの駆動輪と2つの遊動輪を持つロボットの台車を作ることを考える。車輪の軸受けの配置としては両持ちと片もちとある。今マシンが90kgであり、2つの駆動輪でその2/3を、2つの遊動輪で1/3を支えるとする。すると、

駆動輪のF = 30kg、 遊動輪のF = 15kg
になる。両持ちで車輪と2つの軸受けとの距離が同じであるとき、
それぞれの軸受けに加わる力 = -F/2
上の例では駆動軸では15kg、遊動輪で7.5kgになる。
しかし片もちの場合は
F1=-(L2/L')F、F2=(L1/L')F
となる。例えばL1=L'でL2=L1+L'のとき
F1 = -2F、 F2 = F
であり、上の例では、駆動輪のF1=60kg,F2=30kg、遊動輪のF1=30kg,F2=15kgとなる。
摩擦抵抗はこれらの力に比例するので2つの軸受けで生じる摩擦抵抗はF1+F2に比例する。それゆえ
両持ちと片持ちの摩擦抵抗の比 = 3F/F
すなわち片もちの場合は両持ちの場合と比べ、3倍の摩擦抵抗になってしまうことが分かる。なので回転体の軸は出来るだけ両持ちにすること、どうしても片もちにするときはできるだけL1を小さくし、L'を大きく設計することが必要である。

【軸の太さ】
軸受けに加わる力は軸受けの配置で大きく異なることが分かりましたが軸の太さも軸受けの摩擦抵抗に影響を与えます。滑り軸受けの場合、摩擦力は軸の表面で働き、その大きさはμFである。この状態で軸を回転させるためにはトルクと呼ばれる回転力が必要になる。

トルクT = μFr
である。軸を回転させるために必要なトルクは軸半径に比例して大きくなる。もちろん軸には十分な強度を与えなければならないが、必要以上に太くするのは間違った設計となる。

・ロボットの速度
もし軸受けで生じる摩擦トルクが大きくなってしまったら、結果としてどのようなことが起こるのだろうか。少なくとも力学的エネルギーの損失が起こるのは明らかである。またこういう問題もあげられる。普通ロボットの駆動用に用いるモータはDCモータである。モータの回転数とトルクの特性は縦軸にモータの回転数、横軸にモータが発生するトルクをとると右に落ちていく直線のグラフによって表される。そして電圧Eが大きくなればこの直線は傾きは同じまま上へと移動する。
ここでさっきの両持ちと片持ちの話を思い出すと、片持ちでは両持ちのときの3倍のトルクが必要になり、するとモータのグラフから分かるように片持ちのときの回転数は両持ちのときより落ちる。電圧によっては動かなくなってしまう。なので何かの理由でトルクの低いモータを使わなければならないときに軸受けの摩擦抵抗は特に問題になる。また実際には軸受けの摩擦抵抗だけでなく、車輪が床を転がるときの転がり抵抗も大きな問題となる。軸受けを設計するときはこれらのことを考慮して設計しなければならない。

次に金属材料、非金属材料の特徴を示す。
金属材料
・一般に常温では固体である。
・電気や熱をよく通す。
・金属特有の光沢がある。
・溶ける温度が高く、硬い。
・大きな力を加えると、薄くしたり曲げたりすることが出来る。

非金属材料
・軽い
・電気を通さない。
・耐腐食性に優れている。
・耐熱性は金属に劣る。
・透明なものが多い。

相撲ロボットに用いられる材料の一覧表

アルミアクリル
重さ重いやや軽い重い軽い非常に軽い
比重7.92.79.01.20.4
強さ強いやや強い強いやや弱い弱い
衝撃強さ強いやや強い強い割れる割れる
部品同士の接合方法ネジ、溶接、接着剤ネジ、接着剤ネジ、接着剤、ハンダ付けネジ、接着剤ネジ、くぎ、接着剤
価格やや安いやや高い高い高い安い
その他錆びる--溶ける燃える


参考資料
1.ロボコンマガジン4,5,6