ドキュメント情報

名称

MIRS0901 サスペンション詳細設計書

番号

MIRS0901-MECH-0004

 

版 数

最終更新日

作 成

承 認

改 訂 記 事

A01

2009.11.2

宇山

武藤

 


目次

1.                       本ドキュメントについて

2.                       基本構想

3.                       作成手順

4.                       完成図

5.                       特長点・問題点

6.                       おわりに


1.        本ドキュメントについて

本ドキュメントはMIRS0901のサスペンションの構想・ならびに試作品の作成の手順について示す。

 

2.                     基本構想

MIRS0901の機体には電子コンパスが組み込まれており、計測精度向上のためにも通常走行時の姿勢変化はできるだけ避けるべきである。

そのため他班よりもしっかりとした足回りが要求されるが、MIRS底面と接地面との差は4~5cmしかないため、シンプルな機構とする必要がある。

その上で、シーソーの段差やステップの攻略のできるような機構を目指す。

 

3.                     作成手順

以下に、試作品の作成に用いた自作パーツの仕様を示す。

 

(a)          フロント(MIRS前方)

3-1                  プラスチック製パーツ上段

54×54[mm]程度のプラスチック板を以下のように加工する。

Fig.1      上段

 

また、このときに使用するキャスタの穴を開けておく。キャスタの中心と上段パーツの中心がぶれないように注意する。

 

3-2                  プラスチックパーツ下段

80×80[mm]程度のプラスチック板を以下のように加工する。

Fig2.下段

3-3                  バネ支持ステンレス棒

直径3mmのステンレス棒(Home Assistの資材コーナで1mあたり600~700円で販売)のものを以下のように加工する

(1)    ステンレス棒を任意の長さに切る。任意の長さは以下のように定めるとよい。

ステンレス棒の長さ バネの作動長さ(当班の場合およそ16~18mm程度) + ナット2個分 + スプリングワッシャ1個分 + 1mm

具体的な数値を出さなかったのは、調整を行いながら長さを変更したためである。

(2)    ステンレス棒の一端を面取りする。基本的にはやすりで十分削れるので、やすりを使用して加工するとよい。

グラインダでも加工できるが、材料が熱くなる上にパーツが小さいため作業もしづらく、安全面から考えると推奨しない。

このあとのネジ切りがスムーズにできるくらい加工すればよい。

また反対側も、切り口が平坦になるように軽くやすりがけをしておく。

(3)    ステンレス棒の一端をネジ切りする。使用する工具はφ3、ピッチ0.5mmのダイスである。

ダイスの使用方法はウェブページなどを参照されたい。以下の長さだけネジ切りを行う。

ネジ切り長さ(下端側) = 3-2で作成した下段パーツの厚さ + ナット2個分 + スプリングワッシャ1個分 + 1mm

尚ネジ切りを行う際は、切削油を用い、しっかりと上側から押すようにしてねじ切りを始め、ダイスを裏返してしっかりと根元まで切る作業を忘れないこと。

これを行わないと後で固定ができなくなったり、材料が曲がったりして全く使い物にならなくなる。特に曲がってしまった場合は、諦めた方がよいだろう。

どうしても戻したい場合は、万力にアルミの口金を当てて無理やり戻してもよいが、ネジが非常にまわしづらくなるので注意が必要である。

これで棒の加工は終了である。曲がりなどがないか確認し、切削油をふき取れば完成である。

 

3-4                  その他使用部品

キャスタ              キャスタの中心軸から外径までが20mm未満のものなら使用可能

スプリング           柔らかめのバネを使用するとよい。参考までに当班では以下のものを使用した。

()モリギン        商品番号653       押しバネ              線径0.4mm         外径6mm            巻数21

                            (Home Assistにて2150円。これを半分に切り、4本にしてから使用する)

その他、ネジ、ナット、スプリングワッシャなど

 

3-5                  組み立て手順

(1)                   3-3で作成したステンレス棒の下端側を3-2で作成したプラスチックパーツの下段に固定する。

まず、ステンレス棒にナットをつけしっかりと固定する。

次に、それらをナットがついた端を、Fig.2の水色で示された穴に、すべて同じ側からさしていく。

そのあと、スプリングワッシャを通し、ナットで締め上げればステンレス棒とプラスチックパーツ下段側が固定される。

(2)                   3-1で作成したパーツに、キャスタをつける。ネジやナットを用いて固定する。間にスペーサをかませてもよい。

(3)                   (1)で作成したパーツのステンレス棒の長い面を上にし、(2)で作成したパーツをキャスタがついている面を下にし、(2)で作成したパーツをステンレスの棒にさす。

このときナット1個分だけうく格好になるが、仕様なので特に気にしないでいただきたい。

(4)                   バネをステンレス棒にそれぞれ通す。

(5)                   長ネジをステンレス棒が伸びている方向と同じ方向にさす。その後、プラスチックパーツ下段を固定するためにスプリングワッシャとナットを噛ませておく。

その後、更に長ネジに一個ずつナットを通して、高さを調節できるようにする。

その後、パーツをMIRS下段に取り付ける。対応するネジ穴は、Fig.2Fig.3の対応する色同士になっている。

Fig.3 対応するネジ穴

ネジ穴が通ったあとは高さ調節用のナットを調節し、ステンレス棒がMIRS底面に軽くつく程度の高さになるように調節する。

その後反対側からスプリングワッシャとナットを通して固定する。

 

(b)          リア(MIRS後方)

3-6                  ネジの加工

適度な長さのネジを、ネジ山が無くなるように根元20~30mmをやすりで削る。

 

3-7                  キャスタの加工

標準で使用されているキャスタに追加で穴を開ける。左右両側にあいているものに加え、前方にφ3で穴あけ。

もしこの作業が駄目だったら(2009年度は何も言われませんでしたが)、補助パーツなどを自作してみてください…

 

3-8                  ゴムの加工

Home Assistで売っている10cm×1m×2mmのゴム幕をホームベース状に切り、これを二枚作成する。

サイズはゴムなのであまり気にしなくてもよいが、キャスタ前方の穴とMIRS底面のどこか開いているネジ穴との距離を測定し、穴を開けるとよい。

Fig.4 (参考)ゴム幕の加工

 

3-9                  組み立て

キャスタに3-6で加工したネジを通し、バネ(前方のものよりは若干固めがよい。当班は()モリギンの654を使用した)をネジに通し、MIRS底面だけ固定されるようにする。

するとキャスタが前後と縦にガチャガチャ言いながら衝撃を吸収するようになる。

しかしシーソーやステップに、キャスタのふちが引っかかってしまうことがある。

そこで3-8で加工したゴムを、二枚ともまず適当なMIRS底面で固定し、その後一枚はキャスタの穴の上方、もう一枚はキャスタの穴の下方にゴムを引っ張り、

ちょうどキャスタの淵をごむで覆うような形にし、ネジで固定する。

このことでキャスタが前を基準に動作するようになるため、シーソーやステップでも引っかからなくなる。

またゴムを加工するのが面倒だと感じたりする場合は、ガムテープでキャスタ前方を固定してあげるだけでも、正直な話全く問題なく動作する。

ゴムを使用する場合、2枚使用する理由は1枚だと簡単に裂けてしまうからである。

 

 

4                        完成図

 

Fig.5 完成図

 

 

5                        特長点・問題点

このMIRSサスペンション機構の特長点、問題点について述べていく。まず特長点は、

       キャスタ関連のミスが起こりにくい。ぬるぬる動く

       バネ比を前後左右で自由に変更できる。様々なタイプの振動に対応できる

       使用できるキャスタに制約がない。通常のキャスタでもボールキャスタでも動作する。

       やろうと思えばリアのサスペンションにもフロントの構造が使える。ただし、前後のバネ長さが多少シビアになると考えられる。

       競技会で使用されたシーソーやステップより高いものでも、多少なら乗り越えることができる。

また、問題点については、

× 微調整時にMIRS本体がカタカタと前後に振動する。

× MIRS本体が中途半端に斜めになる。

などが上げられる。

問題点のうち、まず一つ目のMIRS本体が振動するのは、ダンパーが入っていない(いくらか摩擦による減衰はあるが)ため、振動を抑制し切れなかったのだと考えられる。

ただし恐らく、どこか一箇所に若干固めのバネを使用すると状況は改善できると思う。

更にMIRSが斜めになるのも構造上の問題で、このサスペンション機構の高さはバネの長さとキャスタの高さに依存することになるので、あまり高さのあるキャスタは使えない。

ただし、バネをひきバネにするなどの工夫をすれば斜めになることも無く、前後にフロントと同様の機構の搭載が可能だと考えられる。

もし今後この機構を使用してみようと考えている方がいたら、その点も留意されたい。

 

6                        おわりに

結果として十分に動作しうるサスペンション機構を製造し、使用することができた。

当初、MIRS競技会に用いられる予定であったシーソーとステップは実際に競技会で使用されたものよりも高さがあり、

単純にボールキャスタ支持部にバネを組み込むだけでは十分に安定したシーソー、ステップの攻略は不可能であった。

このためまったく独自の構造のサスペンションを作成し、これらのシーソー、ステップの安定的な攻略を達成した。

しかしこの後、シーソーとステップの高さが下げられ、

単純にボールキャスタ支持部にバネを組み込むという構造でも攻略が可能になり、結果としてオーバースペックになってしまった。

本来ボールキャスタの縁がひっかかるということで作成したのがこの構造だったわけだが、完全に無用の長物になってしまったわけである。

だが今回作成したサスペンションの構造を用いれば、ある程度の段差は大体攻略が可能になった。

作成者としては今後のMIRS競技においても十分活用し得るものだと思っているので、ぜひ活用されたい。

また、最後に開発段階で作成したサスペンションを掲載するので、開発中に気づいたノウハウやアイデアが参考になれば幸いである。

 

(1)    試作初号機

最初に作成したサスペンション。

まずは高さのことを一切考慮せず適当に作ってから考えようと思っていたことから、とんでもない代物ができてしまった。

サスペンションの衝撃は基本的に前からしか来ないものと考えて設計したため、

横方向からの衝撃にはほとんど対応できない、一度衝撃が来ると二回目はうまく作動しない、そもそも蝶番を使用しているメリットがない…

と失敗作としかいいようがないものになってしまった。

結果的に高専祭準備日に一日で設計・作成し、一日でお釈迦となった。

 

(2)    実験二号機

前日の失敗を生かし、高専祭1日目に設計・作成。

二号機になってからの特徴的な点は、バネの搭載位置が単純に車体と車輪の間に取り付けられていないことにある。

これにより高さの問題を気にする必要性が減少した。下段の板のほうが固定され、上段が衝撃を吸収する仕組みになっている。

この機構の利点は高さを大幅に短縮しつつも、衝撃を吸収するという役割はしっかりと果たしきれることにある。

また初号機と他に異なる点として、アクリルと支持棒の摩擦をできるだけ少なくするよう、長いネジから両端がネジ切りされたステンレス棒に変更された。

このことにより動作が非常にスムースになり、安定した動作がもたらされるようになった。

このとき搭載していたキャスタは三、四号機で使用されたものよりも一回り大きく、これを問題なく回転させるには下側支持板に相当の径が必要であることが判明。

三号機以降は小型のものに変更されることになった。

これらのような改善が見られたものの、いまだにMIRS底面に搭載するには大型であり、更なる改良が必要とされたため即日解体処分となった。

 

 

(3)    実用三号機

二号機のコンセプトを引き継ぎながら開発した三号機。高専祭2日目と片付け日の2日で設計・作成。

今回の開発で初めてMIRSに搭載されたサスペンションであるが、実装当初は高さがありすぎるなどの問題が多発した。

しかし様々な修正を施していき、最終的には旧型のシーソー、ステップをリモート操作で完全に攻略しうるレベルまで達することができた。

 

またこの機体(?)までは押しバネではなく引きバネを使用していた。

引きバネの利点としては二号機までネックとなっていた高さの問題をあまり考慮しなくてよくなることにあった。

即ち、サスペンションが作動してほしいとき以外は適度に車高を維持しつつも、衝撃が来たときには大きく作動するという目論見で搭載していたわけである。

しかし実際はバネを固定するのが困難であったり、衝撃を吸収するまでのマージンが大きすぎたりと一筋縄にはいかない問題が発生。

このためこの後に作成される四号機は押しバネを使用することを前提とした構造となった。

またバネを前後左右4箇所に配置。これにより全方向からの衝撃に対応しうるものになった。

 

 

(4)    実用四号機

上記の競技会で使用されたものの普通のキャスタ版。

当初はこれで競技会に望む予定だったが、方向転換の際にキャスタ車軸に対して横方向の抵抗が大きいことがネックとなり、改良が施されることとなる。

 

(5)    改良四号機

これが実際に競技会で使用されたものである。改良点はキャスタをボールキャスタに変更したのみ。

普通のキャスタでなくなったため構造的にもっとコンパクトにすることも可能であったが、円盤が大きくなることによって結果として様々な方向からの衝撃に耐えることが可能になった。

MIRS底面にこれ以上何かを搭載する予定があるわけでもなかった上、再設計し取り付け直す時間もなかったのでそのまま使用した。