沼津高専 電子制御工学科
MIRS05完了報告書
MIR05SF-CURR-0008
改訂記録
版数 作成日作成者 承認 改訂内容 提出先
A01 2006.3.20 長澤 長澤 初版
A02 2006.3.29 長澤 長澤 作業工程のグラフのサイズ修正

目次

  1. はじめに
  2. カリキュラムの実施概要
  3. MIRS05カリキュラムの特徴
    1. MIRS標準機の製造仕様書の整備
    2. 競技ルールの改訂
    3. チーム編成
    4. 購入仕様書の作成
    5. コスト意識の啓蒙
  4. 実施結果
    1. 競技ルール
    2. チーム編成
    3. 作業工程分析
    4. コスト意識の啓蒙
    5. 実施費用
    6. ドキュメント管理
    7. 競技会
    8. 成績
  5. まとめ

  1. はじめに
  2. 本文書は、2005年度4年生に対して行われた小型知能ロボット開発カリキュラム(通称MIRS05カリキュラム)の実施報告である。

  3. カリキュラム実施概要
    1. 授業科目名と単位数
    2. 本カリキュラムは2005年度において次の科目名で実施された。
      年度授業科目名学年学期単位備考
      98電子機械設計製作I4前期2
      99電子機械設計製作II4後期3
      99電子機械設計演習4前期1夏季集中

    3. 競技
    4. MIRS2005では競技名「MIRSオリエンテーリング」を提示しその競技に勝利することを目的とした。本年度からポストに番号と同数の黒いラインを設けた。これは画像処理によってポスト番号を認知し易くする為である、競技ルールについてはMIR2005競技規定(MIRS05SF-CURR-0003)を参照のこと。

    5. カリキュラム実施状況
    6. カリキュラムは昨年と同様に、まず標準機を製作し、その改良設計をおこなう手順を踏む。前期に標準機の組み立てて問題点、改良点の洗い出しを行い、基本設計および詳細設計を行う。後期に製造設計、製作、改良そして競技会という予定で実施された。 詳細はMIR2005実施要領(MIRS05SF-CURR-0002)を参照のこと。
      しかし、前期の作業が遅れ詳細設計は後期にずれ込むことになった。変更した後期の日程はMIRS2005電子機械設計製作II(後期)実施要領(MIRS05SF-CURR-0007)を参照のこと。

  4. MIRS05カリキュラムの特徴--以前との相違点--
  5. MIRS05カリキュラムの実施にあたり作年度までのカリキュラム実施の反省点もとにいくつかの点について改善を行った。

    1. MIRS標準機の製造仕様書の整備
    2. 卒業研究の学生により標準機の製造仕様書を再作成した。この作成にあたり以下の点を留意、徹底した。
      1. 階層構造の徹底
      2. 組み立て図では一つの図面で一つのアセンブリ
      3. 材料の加工図では一つの図面で1部品の加工
      4. 部品表のフォーマットの統一。
      5. 部品表には必ず購入品か製造品(なんらかの加工や組み立てを伴う)かを区別。
      6. 部品表の製造品には必ず図面が指定されている。
      7. 試験仕様書やソフトウェアも部品として扱う。
      以上の留意点に基づき作成された標準機の仕様書のトップは
      MIRS2005標準機 製造仕様書(MIRSSTND-ASMY-0022) である。この仕様書か標準機の製造に必要なすべての仕様書がたどれるはずである。

    3. 競技ルールの改訂
    4. 標準機の充実とともに、新規に設計する部分がソフト中心にとなるにつれ、ハードウェアとくにエレクトロニクスがブラックボックス化してしまっている。とくに、今年度は回路に手をつけないチームが多くなることが予想された。そこで、ハードウェアの設計要素が生じるようにルールに手を加えることにした。
      標準機のままでもポストの獲得ができることを留意し、ポスト番号を視覚により認識できるようにポストに黒いラインを設けた。

      この改定では、画像認識まで行わなくても色センサや赤外線の反射を利用したセンサを使用してラインの数を認識できる。もちろん、カメラを使った画像認識も可能である。

    5. チーム編成
    6. 例年のチーム編成は、チーム分けにはある程度教員側の意向を反映する方策をとっていた。本年度は学生にある程度自由にチーム編成を行わせた。この方法では、授業に積極的でない学生ばかりで構成されるチームができる可能性があるが、「2:8の法則」によればそのチームにおいても怠ける学生は2割で、2割の学生が積極的に働くことになる。

      これは、「パレートの法則」ともいい、例えば「働きアリの20%はあまり働いておらず、その20%のアリを巣から除くとまた新たな20%のアリが怠け者アリになる」「トップ20%の営業マンが売上げの80%を上げる」「10項目の品質向上リストのうち上位2項目を改善すれば80%の効果がある」など、さまざまな分野で使われている。

      本カリキュラムでは、例年この働かない学生と成績との相関が高く、チーム編成を成績を基準に分散化するとおおよそ働かない学生が予想できる。本年度は、そういった学生にも積極的にカリキュラムに係わってもらおうという意図である。

    7. 部品の購入仕様書の作成
    8. 部品の購入に関し、購入先や購入方法などの情報は担当していた教員に集中していたが、やはりこの情報も共有すべきであると考え、購入仕様書の作成を開始した。購入仕様書には購入する部品の品名や仕様、製造元、購入業者などを記載した文書で、同一物品を発注する際に必要な事項がすべて記載される。従って、この仕様書を見れば、部品を特定でき購入先がわかり発注ができる。

      新規購入品については購入時に、在庫品については、在庫が尽きて新規に購入するときに作成することとした。
      購入仕様書

    9. コスト意識の啓蒙
    10. 設計・開発の重要な要素のひとつにコスト意識がある。現実に開発費や製品の原価の意識の無い設計はありえない。JABEEの言う「デザイン能力」においてもコスト意識が重要視されている。今年度は、コストを意識させるために、発注部品費に制約を設け、部品の発注時に価格の調査させる等を指示した。また、完了報告書に工数の積算と開発に要した部品費の総計を記載するように指示した。

  6. 実施結果
    1. 競技ルールの改訂について
    2. ポストに設けられたラインからポスト番号を読み取るアイデアとしては、各チームよって提案された方法は大別して2種類あった。
      1. NTSC仕様のカメラを用い、NTSC信号をAD変換してライン数を読み取る。
      2. 白線センサをラインの位置に縦に並べて、ラインの有無を検査する。

      前者は、高度な回路技術が必要のため実現はかなり難しいと予想された。しかし、NTSC信号の仕様やAD変換技術についての知識を得られることになるので、たとえ実現できなくとも開発を行わせた。2チームがこの方法に取り組んだが、結局、完成させることはできなかった。

      後者は、白線検出技術の延長なので比較的容易に実現できる。3チームがこの方法に取り組み、完成度に違いはあったもののポスト番号の認識に成功している。

    3. チーム編成
    4. 5斑以外は、概ね成績や意欲の程度が分散する斑員構成となった。5斑は完成度が心配されるメンバー構成となった。予想通り5斑のマシンの完成度は高くは無かったが、パレートの法則とおり約2割の者が意欲的に取り組み、2割の者がお荷物だったようだ。このメンバーが分散したとき、そのチームで活躍できたかどうかを推測するとこの試みは成功だったかもしれないが、あくまで推測なのでここでは結論を出さずにおく。

    5. 作業工程分析
    6. 作業は標準機製作の段階で大幅に遅れてしまった。下図はマイルストーン毎に予定日と実施日をプロットしたものである。 プロット点は順に下記の通りである。
      標準機の製作が遅れた原因としては、新モータ制御ボードの不具合に伴い旧版を作り直したこと、および制御パラメータの同定に多くの時間を要したことが挙げらられる。

      番号実施項目予定日実施日
      1授業開始4/124/12
      2標準機動作試験5/317/15
      3システム提案6/217/22
      4開発計画策定6/287/31
      5基本設計完7/129/1
      6詳細設計完9/2010/28
      6プレ競技会12/212/27
      6競技会2/32/3

      次に全員の作業記録をもとに作業工数の分析を行った。作業記録の精度については以前から問題になっているが、以下に示すような正確に記録されていたとは思えない記録が多々見られた。
      作業記録の問題点。

      下表は作業時間と時間外作業時間をクラス全員について合計したものである。

      表1.総作業時間数
      総授業時間総時間外作業時間総作業時間総作業時間/総授業時間
      3267579090572.77

      表から全作業時間は授業時間の約2.8倍であることがわかる。これは1大学単位の時間配分(30時間の授業に対し15時間の自習)に対し大幅に超過している。MIRS98の報告の1.59倍に対しずいぶん多くなっている。懸案の時間外作業が多いという問題は一時鎮静化したように見得たが、カリキュラムの一年化に伴い、再燃した様に思える。ただし、時間のわりには、マシン尾の完成度が低いことに、その他の問題があることが示唆される。また、個人別に見るとかなりのばらつきがあり特定の学生の頑張りに頼っていることは否めない。今後作業量を平均化するなんらかの工夫が必要と思われる。

    7. コスト意識の啓蒙
    8. 発注伝票のフォーマットや発注の流れなど発注に関する体系が整備できず、また購入仕様書の作成も不十分であったので、発注段階でのコスト意識は十分に教育されなかった。完了報告書に、工数分析と部品費の積み上げを記載してもらったが、いずれのチームも積算しただけで分析がなされていない。教員も学生も、競技会の終りが授業の終りと考えてしまいがちで、最後の詰めが甘くなる傾向にあるので、次年度は注意されたい。

    9. 実施費用
    10. 費目備考
      部品89,674IC、ソケットタイヤ、蝶番、アルミ材など
      工具24,258ドライバ、ニッパーなど
      消耗品60,156ドリル刃、ボンド、テープ、半田など
      その他6,709賞状、部品送料など
      合計180,797

      消耗品のなかで大きな割合を占めるのが基板削りだし機のミリングカッターやドリル刃である。やむをえない。

    11. ドキュメント管理
    12. 本カリキュラムに、ISO9000式のドキュメント管理を導入して久しいが、ものづくりの未経験者に管理の意義を周知徹底し正しく管理させるのは難しいことを再認識した。以下に文書管理のの基本事項を示す。
      1. 文書の保管
           
        • 保管場所を明確にする。
        • 管理台帳によって文書の所在、登録・発行の状況を明らかにする。  
        • 保管期間を設定する。  
        • 登録権・閲覧権を明確にする。
      2. 文書の責任の明確化
           
        • 誰が作成して、誰が承認したのかを明確にする。
      3. 改版の管理
           
        • 改版することが出来る人を明確にする。  
        • 改版記録を記載する。  
        • 改版の通知範囲を明確にし、通知を徹底する。

      ドキュメント管理が正しく行われないケースを列記すると などである。

      また、標準機の製造仕様書を整備して提示したにも関わらず、全チームについて製造仕様書がまともに作成されていなかった。ほとんどの学生が製造仕様書の構造について理解していなかったことが、直接の原因であるが、その根本には、 が挙げられる。次年度は正しく製造仕様書が作成されることを望む。

    13. 競技会
    14. 競技会の開催は、実行委員会を組織してその開催に当たった。昨年の反省に基づき、今年度はリーダーシップを取れることを留意して実行委員長を選出した。昨年は、競技会の運営がもたつき、観客がざわつく場面が多かった。本年度は、その点が改善され競技会は、手際よくスムースに運営された。

      また、開始前の各チームのプレゼンテーションも非常に良く工夫されていた。惜しむらくは、ポストを獲得できたチームが2チームのみであったことが、非常に残念である。

    15. 成績
    16. 前期と後期の期末に、ほぼ同じ内容の筆記試験を行った。内容はごく基本的なもので、最低限これだけは知っておいて欲しいというものである。前期の試験は、惨澹たる結果であった。自分たちが使用するCPUを知らない。FPGAを知らない。OSを知らない。センサの原理を知らない。いずれも、自分たちが作ろうとするマシンに必要不可欠な事項である。いかに傍観的な立場で授業に臨んでいるかが伺われる。また、自分の担当を勝手に線引きしていることも推測できる。後期は同じ内容と宣言して試験を行ったので、図に見られるようにほぼ全員がよい点を取っている。身に付いた知識ではなく試験に備えて覚えてものであろうが、それも良しとしよう。

      最終評価は提出ドキュメントの内容、各動作試験の成績、競技会成績から決まるチーム点と作業記録、筆記試験、チームに対する貢献度できまる個人点から算出される。下表は配点とチーム点である。

      電子機械設計製作I(前期)
      チーム点個人点
      項目標準機
      動作試験
      システム
      提案書
      基本
      設計書
      作業記録口頭諮問筆記試験
      配点[%]201020201020

      電子機械設計製作I(前期)チーム点
      チーム名標準機
      動作試験
      システム
      提案書
      基本
      設計書
      満点100100100
      MIRS0501848585
      MIRS0502969595
      MIRS0503809590
      MIRS0504868090
      MIRS0505807585

      電子機械設計製作II(後期)
      チーム点個人点
      項目詳細設計統合試験競技会
      Presentation
      競技会成績完了報告書作業記録貢献度筆記試験
      配点[%]2010101010101020

      電子機械設計製作II(後期)チーム点
      チーム名詳細設計書統合試験競技会
      Presentation
      競技会
      成績
      完了報告書
      満点1001001010100
      MIRS050185858980
      MIRS050290100101095
      MIRS050395808890
      MIRS050490808880
      MIRS050580808775

      下図は最終評価点の分布である。前期(電子機械設計製作I)では、退学者を除き全員がA、後期(電子機械設計製作II)では4名の者がBの評価となった。

    17. まとめ
      1. 長澤研究室配属の卒研生の力を借り標準機の製造仕様書を整備した。概ね満足のできる仕様書になった。
      2. 購入仕様書の整備を進めたが、後期の発注から業務多忙のため作成の時間が取れなかった。学生にも発注担当教員にも極めて有効なドキュメントなので、次年度以降も整備を続けてほしい。
      3. 今年度は「コスト意識の啓蒙」を心がけたが、まだまだ十分ではなかった。さらなる工夫が必要である。
      4. 98年に長澤がとった統計よりも時間外作業の割合が増えている。標準機を提示して、なお完成度が低いにも関わらず、増えている。1年化が原因なのかを、ここ数年の作業記録を見直して検討する必要がある。
      5. 実施費用のなかで部品以外にはドリルビット、ミリングカッターが大きな割合を占める。
      6. ドキュメント管理の徹底は難しい。頻繁にドキュメントが正しく作成され、登録されているかをチェックする必要がある。ISO9000などで厳しく言われている文書を作成しながらのシステム開発手法を、ほぼ実社会と同様の流れで実体験させることが、本カリキュラムの目的の一つでもあるので、もっと注力すべきであった。
      7. 標準機を与えてたにも関わらず、2班を除く各チーム完成度が低調であった。競技会では満足にポストを獲得できないチームが続出した。学生から、ポストの個数と配置が難しかったという意見もでたが、少なくとも標準機よりも上回ってほしい。
      8. 最終評価でB評価が4人となった。
      9. 標準機の製作に時間がかかった件について、改善点を述べる。
        • 新規に導入する回路基板については十分に評価を行うこと。
        • 制御系のパラメータの同定を簡単に行えるようにする。パラメータの自己学習機能などの導入