沼津高専 電子制御工学科
超音波センサ調査報告書
MIRS0202-TECH-0004
改訂記録
版数 作成日 作成者 承認 改訂内容
A01 2002.12.11 小野田 山田 初版


1.目的
       MIRSに搭載する超音波センサの指向特性について重点的に調査し、仕組みについても調査する。


2.調査報告


   1.指向特性について

       (1)   超音波の性質
          
  • 超音波は、人間の聴覚器官で聞き取る事のできない16kHz以上の周波数の高周波な音の事である。

  • 超音波は、気体中で減衰しやすい。

  • 硬い物(金属、木材、コンクリート、ガラス、ゴム、紙など)は超音波をほぼ 100% 反射するので
    これらの物体の有無は十分検知することが出来るが、布、グラスウール、綿、の柔らかくて空気を含んでいる物体は超音波を吸収するため物体の有無の検知が難しい。
    物体の表面が凸凹だと超音波が乱反射をしてしまう為に測定が難しくなる。

    fig1にこれらの減衰現象の様子を示す。

    fig1
    fig1 距離による音圧の減衰特性


  • 超音波の伝搬速度

    空気中における超音波の伝搬速度(v)は、(I)式で表される。
    v =331.5 + 0.607z(m/s) z:摂氏温度(ºC)………(I)

    (I)式から、摂氏温度が高くなれば超音波の伝搬速度は速くなる事が分かる。
    よって、超音波を用いて物体までの距離を測定する場合、精度の良い値が欲しい時は、温度補正を行う。
    ※しかし、実際に10ºCの時と20ºC(気温差10ºC)の時に超音波が1m進んだとする。
    z=10(ºC)  v = 337.5(m/s) t = 2.96(ms)
    z=20(ºC)  v = 343.5(m/s) t = 2.91(ms)
    したがって、10ºCの温度差があっても伝搬に要する時間と言うのは、変化が少ないので温度差は気にしなくても良いと思う。

  • 超音波の距離測定法

    (I)式より求めた、超音波の伝搬速度(v)を利用して、距離(d)が次のように求められる。
    なお、超音波が発信されてから反射波が検出されるまでの時間をtとする。
    d=v×0.5t
       
       (2)   超音波の指向特性と反射特性
       
      超音波は、トランデューサから一定の広がりを持ってビーム状に発射される。
そのビームの形状を超音波トランデューサの指向性と言う。
市販されている超音波トランデューサの指向性は、それ程鋭くなく、半値角として 20º〜 30º程度の広がりを持つ。
超音波センサの指向性が広いと、センサによって計測された対象物体の形はかなりボケたものになる。
すなわち、超音波センサは、距離方向の分解能はよいが、横方向の分解能はよくない。
この指向性を改善する方法として、トランデューサにホーンアンテナを取り付ける手段がある。
アンテナには一般に指向性を鋭くすると同時に、中心方向のゲインをかせぐという利点がある。
ただし、ホーンアンテナの設計を理論的に行なうことは難しいので、ある程度の試行錯誤によってホーンの形を決める必要がある。

fig2
fig2 超音波の広がり

ホーンの設計例を示す。

fig3
fig3 ホーンの設計例

超音波のような波が対象物に当たった場合、対象物が凹凸のある表面を持っていたとするならば、超音波は散乱しあらゆる方向に反射波が進んでいく。
しかし鏡面を持っていたとすると入射角と反射角の関係から反射波は反射角の方向にしか観測されない。
センサに対して斜めの鏡面は観測されにくいと思われる。超音波にとってどの程度までが散乱面なのかは波長 λ から知ることが出来る。
以下にその関係式を示す。
v = λ f
ここで 20 ºCの空気中の音の伝搬速度を求めると、
v = 343.5
超音波の周波数を 40 KHz として波長 λ を求める。
λ = v ÷ f = 343.5 ÷ 40K = 8.6 [mm]
以上の結果により、対象物の凹凸が約 8.6 [mm] 以上の場合には散乱面とみなされる。
       
       (3)   超音波トランデューサ
       
      電気信号を超音波に変えて空気中に発射する超音波スピーカ(送波器)と
空気中を飛んできた超音波を受けてそれを電気信号に変換する超音波マイクロホン(受波器)を
合わせて超音波トランデューサと言う。
音は空気の振動であるから超音波トランデューサは、電気信号を機械的振動に変えたり、その逆の役割も果たす。
これらの電気振動変換素子は原理的には一つの素子が送波器にも受波器にも働くが送波と受波では空気の振動振幅にも大幅に異なり、
しかもインピーダンスを変えたほうが効率がよいので別個のトランデューサを利用するのが普通である。

fig4
fig4 超音波トランスデューサー

       
       (4)   回り込み波対策&短距離・長距離検出
       
      超音波センサは、人間の聴覚器官では聞き取る事のできない、高周波も受信するので、わずかな雑音や振動も感知してしまう。
そこで、この回り込み波対策の例として2つを示す。

  1. 計測禁止期間を設ける

    測禁止期間を設ける事により、送信トランスデューサからの超音波を物体からの反射と認識する事を防ぐ。
    距離を 2 回測定して、その値が違っていたら再度センサを働かせるというようなソフトウェアによる対策が有効である。

  2. クロック発信機による回り込み波防止&長距離・短距離検出

    以下のように回り込み波防止&長距離・短距離検出ができる。

    fig5
    fig5 回り込み波防止&長距離・短距離検出回路例

    fig6
    fig6 波形

    fig6より、クロック波形を延長する事で、短距離及び長距離波も検出する事ができる。

    fig7
    fig7 波形2

    fig7のように、クロックの波の延長度が小さかったら、回り込み波を検出してしまい正確な距離測定ができない。

    fig8
    fig8 波形3

    逆に、fig8のように、波形の延長度が大きすぎても、短距離の検出ができなくなる。

    したがって、クロックの延長度をうまく短距離の物体の反射がトランスデューサで受信される地点に来るように、調整する必要がある。
       
   2.回路について


       (1)   超音波センサ回路の原理
       
     
fig9
fig9 超音波センサ回路の原理
       
       (2)   超音波センサ回路構成
       
     
fig10
fig10 超音波センサ回路構成

fig10の構成による、各部の波形の例がfig4である。
実際には反射波は物体の形によりエコーして残るが、この回路では反射波の先頭だけを検出して、最も近い所からの反射時間をはかる。
fig10では発振器を使用しているが発振波形でなく一発の高圧パルスで超音波スピーカを駆動することもある。

fig11
fig11 超音波波形とタイミング

fig12
fig12 超音波送波回路例

ハードウェアタイマー
超音波センサでは、1 [μs] を 0.17 [mm] に換算する。
したがって、ソフトウェアタイマの 1 回のループに用する時間を 10 [μs] とすると、CPU はこの間他の処理ができない。
ハードウェアタイマを用いれば、その間も他の処理を行うことができる。
ハードウェアタイマとしては、それぞれの CPU に周辺 LSI として準備されているタイマ用 IC を使うのが簡単である。
クロック発生回路とマイコンから読むことのできるカウンタ回路を構成すればそれで充分である。
       
       (3)   超音波センサ利用上の注意
       
     
  • 超音波トランジューサは、周波数選択性が著しいので、送波回路に発信機を用いる時は周波数調整を綿密に行う。
    経時変化や温度変化による発信機のドリフト にも注意が必要。

    ※直接結合増幅回路は直流信号まで増幅できる。
    それゆえ、温度や電源電圧の変化によって ICBO や VBE 等が変化し、コレクタ電流が変化した場合、これを信号直流分と区別できない。
    入力の変動に原因せずに、電流が変動する現象をドリフトと呼ぶ。

  • 受信機は、大きな増幅率をかせぐアナログ回路であり、回路の雑音に注意しなければならない。

  • 続けて距離を測定する場合は、以前に発射した超音波に対する反射や残響が十分に減衰する時間(数 [ns] )をおいてから、次の超音波を発射する。

  • 受信機はマイクロホンであるから、外部の音やシステム自体の機械的振動で誤動作する恐れがある。
    受信機はfig13のようにゴム等を用いて、機械的振動が伝わらないように取り付ける。

    fig13
    fig13 基板へ超音波トランスデューサーを取り付ける方法の例

   3.超音波センサの定格


超音波センサの定格
構造 送信・受信専用
(R:受信用 S:送信用)
品名 MA40B5R/S
特徴 凡用・広帯域
公称周波数 40kHz
感度 −47dB以上
音圧 112dB以上
指向性(半域全角) 50º
静電容量 2000pF
分解能
検知距離 0.2〜6.0m
fig14
fig14 超音波センサの概観図


3.考察


   MIRS0202のMIRSは超音波センサによる正確な距離及び方向測定を必要とする。
   超音波センサの指向性を広くするとセンサによって計測された対象物体の距離及び方向はボケたものになってしまうので、
   MIRSがポスト正確な距離及び方向を正しく知ることができない。
   よって、今回の調査結果より適度に超音波センサの指向性を狭くしてポストを確実に知る必要があることがわかる。