沼津高専 電子制御工学科
超音波センサ調査報告書
MIRS0201-TECH-0003
改訂記録
版数
作成日
作成者
承認
改訂内容
A01
2002.12.15
高畑
今村
初版
目次
目的
超音波の特性
超音波センサ回路の原理
超音波センサ回路の構成
送受信回路の概要
超音波トランスデューサー
超音波の指向特性と反射特性
回り込み波対策&短距離・長距離検出
超音波センサ利用上の注意
超音波センサの概観図及び定格
目的
この調査書は、MIRS0201の中でポストの探索やy軸確保の為に重要な構成部品のひとつである超音波センサについての基本性能を調査し、調査の結果から超音波センサの指向性を鋭くしてポストの有無や距離を把握することが目的である。
超音波の特性
超音波とは人間の聴覚器官で聞き取る事のできない40[kHz]以上の周波数の高い周波数の音を指す。
超音波は、気体中で減衰しやすい。
※空気中を伝搬する超音波の強度は、回折現象により球面上に拡散する“拡散損失"と媒質にエネルギーを吸収される“吸収損失"とによって、伝搬距離が長くなるほど減衰する。また、周波数がより高周波になるほど減衰率が大きくなり、到達距離が短くなる。図1にこれらの減衰現象の様子を示す。
図1 距離による音圧の減衰特性
硬い物(金属、木材、コンクリート、ガラス、ゴム、紙など)は超音波をほぼ 100%反射するのでこれらの物体の有無は十分検知することが出来るが、布、グラスウール、綿、の柔らかくて空気を含んでいる物体は超音波を吸収するため物体の有無の検知が難しい。
物体の表面が凸凹だと超音波が乱反射をしてしまう為に測定が難しくなる。
超音波の伝搬速度
空気中における超音波の伝搬速度
(v)
は、(T)式で表される。
v=331.5+0.607z(m/s)
z:摂氏温度(℃)………(I)
(I)式から、摂氏温度が高くなれば超音波の伝搬速度は速くなる事が分かる。よって、超音波を用いて物体までの距離を測定する場合、精度の良い値が欲しい時は、温度補正を行う。
※しかし、実際に10℃の時と20℃(気温差10℃)の時に超音波が1[m]進んだとする。
z=10(℃) v=337.5(m/s) t=2.96(ms)
z=20(℃) v=343.5(m/s) t=2.91(ms)
したがって、10℃の温度差があっても伝搬に要する時間と言うのは、変化が少ない(0.05[ms])ので温度差は気にしなくても良いと思う。
超音波の距離測定法
(I)式より求めた、超音波の伝搬速度
(v)
を利用して、距離
(d)
が次のように求められる。なお、超音波が発信されてから反射波が検出されるまでの時間を
t
とする。
d=v×(1/2)t
超音波センサ回路の原理
図2 超音波センサ回路の原理
超音波センサ回路構成
図3 超音波センサ回路構成
図3の構成による、各部の波形の例が図4である。実際には反射波は物体の形によりエコーして残るが、この回路では反射波の先頭だけを検出して、
最も近い所からの反射時間をはかる
。図3では発振器を使用しているが発振波形でなく一発の高圧パルスで超音波スピーカを駆動することもある。
図4 超音波波形とタイミング
図5 超音波送波回路例
ハードウェアタイマー
超音波センサでは、1[µs] を0.17[mm]に換算する。したがって、ソフトウェアタイマの1回のループに用する時間を10[µs]とすると、CPUはこの間他の処理ができない。ハードウェアタイマを用いれば、その間も他の処理を行うことができる。ハードウェアタイマとしては、それぞれのCPUに周辺LSIとして準備されているタイマ用ICを使うのが簡単である。クロック発生回路とマイコンから読むことのできるカウンタ回路を構成すればそれで充分である。
送受信回路の概要
図6 送受信回路ブロック図
シーケンサーによるパルスをフォカプラを通して伝え、その情報(一発パルス)とクロック(40kHz)とを合成して送信部から超音波を発射する。反射して戻ってきた超音波を送信部でキャッチし、コンパレーターを通して近距離の不要な反射波をキャンセルし、超音波反射時間の情報をカウンタへ送る。
*ブロック図の各部分について
フォトダイオード
光エネルギーを電気エネルギーに変換するフォトダイオードは半導体の PN 接合部に光が当たると電位差が生じる。光源電力効果を利用した光検出器(フォトセンサ)である。
パルスと振動数波との合成
下図のようにNANDゲートのAにパルスを、Bに正弦波(振動数波)をいれてやるとCから合成されてでてくる。
図7 パルスと振動数の合成
信号増幅部
図8 信号増幅部/TD>
イコライザーアンプ
図9 イコライザーアンプ
微分回路
図10 微分回路
電圧のDC分でカットするための回路
IN60 :バイパスフィルタ
C=1000p:パスフィルタ
コンパレータ−
アナログ量の信号をディジタル化するための回路でスレッショルドレベルを境にして、それ以上ならHighレベル、以下ならLowレベルに 2 進化している。コンパレータには 2 つの入力ピンがあって+と−またはREF、INVという記号がついている。+ (REF) ピンの電圧が− (INV) ピンの電圧より大きければ出力は同極性の方向 ( High レベル ) に振れ、−ピンの方が+ピンの電圧よりも大きいと出力は逆極性の方向 ( Low レベル ) に振れる。出力の一部を入力に房し、ポジティブフィードバックを行っている。 39 [KΩ] の抵抗によってヒステリングスをつくっている。10 [μF]のコンデンサはリップノイズをバイパスさせ、電流インピーダンスを下げている。
時間パルス
図11 時間パルス
超音波トランスデューサー
電気信号を超音波に変えて空気中に発射する超音波スピーカ(送波器)と空気中を飛んできた超音波を受けてそれを電気信号に変換する超音波マイクロホン(受波器)を合わせて超音波トランジューサと言う。音は空気の振動であるから超音波トランスデューサーは、電気信号を機械的振動に変えたり、その逆の役割も果たす。これらの電気振動変換素子は原理的には一つの素子が送波器にも受波器にも働くが送波と受波では空気の振動振幅にも大幅に異なり、しかもインピーダンスを変えたほうが効率がよいので別個のトランジューサを利用するのが普通である。
図12 超音波トランスデューサー
超音波の指向特性と反射特性
超音波は、トランスデューサーから一定の広がりを持ってビーム状に発射される、そのビームの形状を超音波トランスデューサーの指向性と言う。市販されている超音波トランスデューサーの指向性は、それ程鋭くなく、半値角として20°〜 30°程度の広がりを持つ。超音波センサの指向性が広いと、センサによって計測された対象物体の形はかなりボケたものになる。すなわち、超音波センサは、
距離方向の分解能はよいが、横方向の分解能はよくない
。この指向性を改善する方法として、トランスデューサーにホーンアンテナを取り付ける手段がある。アンテナには一般に指向性を鋭くすると同時に、中心方向のゲインをかせぐという利点がある。ただし、ホーンアンテナの設計を理論的に行なうことは難しいので、ある程度の試行錯誤によってホーンの形を決める必要がある。
図13 超音波の広がり
ホーンの設計例を示す。
図14 ホーンの設計例
超音波のような波が対象物に当たった場合、対象物が凹凸のある表面を持っていたとするならば、超音波は散乱しあらゆる方向に反射波が進んでいく。しかし鏡面を持っていたとすると入射角と反射角の関係から反射波は反射角の方向にしか観測されない。センサに対して斜めの鏡面は観測されにくいと思われる。超音波にとってどの程度までが散乱面なのかは波長λから知ることが出来る。以下にその関係式を示す。
式)
v = λ f
ここで20[℃]の空気中の音の伝搬速度を求めると、
v = 343.5
超音波の周波数を40[KHz]として波長λを求める。
式)
λ = v ÷ f = 343.5÷ 40 K = 8.6 [mm]
以上の結果により、対象物の凹凸が約8.6[mm]以上の場合には散乱面とみなされる。
回り込み波対策&短距離・長距離検出
超音波センサは、人間の聴覚器官では聞き取る事のできない、高周波も受信するので、わずかな雑音や振動も感知してしまう。そこで、この回り込み波対策の例として2つを示す。
計測禁止期間を設ける
計測禁止期間を設ける事により、送信トランスデューサーからの超音波を物体からの反射と認識する事を防ぐ。
距離を 2 回測定して、その値が違っていたら再度センサを働かせるというようなソフトウェアによる対策が有効。
クロック発信機による回り込み波防止&長距離・短距離検出
以下のように回り込み波防止&長距離・短距離検出ができる。
図15 回り込み波防止&長距離・短距離検出回路例
図16 波形
図16
より、クロック波形を延長する事で、短距離及び長距離波も検出する事ができる。
図17 波形2
図17
のように、クロックの波の延長度が小さかったら、回り込み波を検出してしまい正確な距離測定ができない。
図18 波形3
逆に、
図18
のように、波形の延長度が大きすぎても、短距離の検出ができなくなる。
したがって、クロックの延長度をうまく短距離の物体の反射がトランスデューサーさ受信される地点に来るように、調整する必要がある。
超音波センサ利用上の注意
超音波トランジューサは、周波数選択性が著しいので、送波回路に発信機を用いる時は周波数調整を綿密に行う。経時変化や温度変化による発信機の
ドリフト
(下参照)にも注意が必要。
※直接結合増幅回路は直流信号まで増幅できる。それゆえ、温度や電源電圧の変化によって
ICBO
や
VBE
等が変化し、コレクタ電流が変化した場合、これを信号直流分と区別できない。入力の変動に原因せずに、電流が変動する現象をドリフトと呼ぶ。
受信機は、大きな増幅率をかせぐアナログ回路であり、回路の雑音に注意。
受信機はマイクロホンであるから、外部の音やシステム自体の機械的振動で誤動作する恐れがある。受信機は
図19
のようにゴム等を用いて、機械的振動が伝わらないように取り付ける。
図19 基板へ超音波トランスデューサーを取り付ける方法の例
続けて距離を測定する場合は、以前に発射した超音波に対する反射や残響が十分に減衰する時間(数ns)をおいてから、次の超音波を発射する。
超音波センサの概観図及び定格
超音波センサの定格
構造
送信・受信専用
(R:受信用 S:送信用)
品名
MA40B5R/S
特徴
凡用・広帯域
公称周波数/TD>
40kHz
感度
−47dB以上
音圧
112dB以上
指向性(半域全角)
50°
静電容量
2000pF
分解能
9
検知距離
0.2〜6.0m
図20 超音波センサの概観図
沼津高専 電子制御工学科
高畑 祐太 Mail: takahata@eces.numazu-ct.ac.jp