フォード社のピント

事例No.6.7

(03.11.11)

報告者:

事実関係:

 1960年代後半,フォード社が設計したコンパクト車ピントは,重量900キロ未満,価格2,000ドル未満で販売するものであった.外国製のコンパクト車との競争を目指して,フォード社は25ヶ月でこの車を生産に持ち込んだ(当時、フォード社の新車開発期間は43ヶ月であった)。この短期間の枠があるので,技術性よりもスタイルが優先され,そのために技術的設計が通常よりも制限された。その結果,ガソリンタンクの最適位置は後部車軸とバンパーの間と決定された。差動歯車ハウジングのボルトの頭が露出していて,後ろからの衝撃でタンクがそれに向かって動いた場合に,タンクに穴をあけることがありえた。

 1978年8月10日、インデアナ州のハイウェイで、追突されたピントが発火し、乗っていた十代の少女3名が焼け死ぬという事故が起こった。後部からの衝突で、ピントが発火した事故はこれが初めてではなく、ピントが発売されて以来7年間で、すでに50近い民事訴訟が起こされていた。しかし、このときは乗員の死亡にともなう刑事訴訟であった。

法廷でその衝突試験がつぎのように説明された:

これらの原型は,2台の生産ピント車とともに,フォード社で衝突試験がなされ,とりわけ後部の事故における燃料システムの完全性を判定するようにした。
……原型は後面から時速21マイル(33.8キロ)で移動障壁(=ムービング・バリア)がぶつかると,タンクが前方に動かされ,そこに穴があき,燃料漏れを生じた……

1台の生産ピント車は,時速21マイルでの固定障壁(=固定バリア)への衝突試験によって,タンクの燃料注入口がもげ,差動歯車ハウジングのボルトの頭によってタンクに穴があいた.少なくても1回の試験では,漏れた燃料がドライバー席に入ってきた.フォード社はまた,タンク内にゴム製の隔膜(bladder)を装着した場合,およびタンクを後部車軸の後ろではなく上に置いた場合について,後面衝撃試験をした.この両方とも時速21マイルの後面衝撃試験に合格した.

連邦政府はガソリンタンク設計への規制の強化を推進していたのだが,ピント車はその時点で適用可能なすべての連邦安全基準に明らかに適合していた.J.C.エコルドは,フォード社の自動車安全ディレクターであって,「衝突による燃料漏れと火災にともなう死亡者」と題する研究を発表した.この研究の主張によれば,その設計を改善する費用(1台11ドル)は,その社会的な受益を上回るという.その報告の注記に述べられた費用と受益は,つぎのとおりである.

$11の設計改善費用をかけたときの受益

節約焼死者数180
重傷者数180
炎上車両数2,100
単位費用$200,000/死亡者
$67,000/負傷者
$700/車両

合計受益 180×$200,000+180×$67,000+2,100×$700=$49,150,000

<$11の改善にかかる費用>

販売車数乗用車11,000,000
トラック1,500,000
炎上車両数2,100
単位費用$11/乗用車
$11/トラック

合計費用 11,000,000×$11+1,500,000×$11=$137,000,000

死亡者,負傷者,および損害車両の数の推定は,統計的研究による.人間の生命の損失$200,000ドルは,全米高速道路交通安全管理局の研究によるもので,死亡者の社会的損失はつぎの計算によっている:


<将来の生産性損失(1971年現在)>

直接$132,000
間接$41,300
医療費病院$700
その他$425
財産損害$1,500
保健管理$4,700
法的及び裁判所$3,000
雇用者損失$1,000
犠牲者の苦痛$10,000
葬儀費用$900
資産(失われた消費)$5,000
その他の事故費用$200

合計/死亡者 $2OO,725


 フォード社は、賠償保険料を支払ってもピントを売り続ける方が利益になると判断した。ピントが売り続けられた結果、ほぼ500人が焼死した。
 フォード社は、多くの民事裁判で敗訴し、少なくとも$50,000,000以上の賠償金を支払った。そして、ビジネスにおける悪評と、フード社は安全な製品を造る技術が無いと思われるようになって、計り知れないほどの損失をこうむった。

問題点:

  1. フォード社が,技術的設計における安全改良をすべきどうかを決めるについて,「衝突による燃料漏れと火災にともなう死亡者」で示されたような数値を用いることの妥当性を調べよ。これは通常の「リスク・便益分析」であって、なんら非倫理的な手法とは考えられないが、この手法そのものに問題があったのか、それとも他に問題があったのか。
  2. フォード社の副社長の一人が、自分の娘のために、ピントを購入した。又、事件が公になってから、多くの乗用車レンタル会社がピントを格安で放出したところたちまちにして売り切れた。これらの事実は「リスクと安全性」について、何を物語っていると思うか。
  3. 1988年、GMCが発売したピックアップトラックは台車の外側、車体の横側にガソリンタンクを取り付ける設計になっていた(明らかな欠陥設計である)。1989年、横転したピックアップに乗っていた17才の少年が焼死するという事故がジョージア州で起こった。この事実は「リスクと安全性」ついて何を物語っていると思うか。