電子制御工学科ホームページへ トップページへ
強安定成層下における乱流輸送機構の解明
An Investigation of Turbulent Transfer Phenomena in a Strongly Stably Stratified Flow

研究種目: 若手研究(B)
研究期間: 2009年〜2010年
機関番号: 53801
課題番号: 21760139
研究代表者: 大庭 勝久 (Katsuhisa OHBA)
交付決定額:
2009年度 2010年度 総計(金額単位:円)
直接経費 1,900,000 500,000 2,400,000


<背景・研究目的>

鉛直方向に温度勾配を有する温度成層流は、熱機器や化学プラントを始めとする産業機器内、あるいは大気・海洋や湖・河川等の地球環境中に存在する基本的流れである。そこでは、温度差により発生する浮力が、流体運動や熱・物質輸送に重大な影響を及ぼし、工業地域から排出される汚染物質の環境中への拡散・集積や気候変動等を高精度に予測する上で重要な要素となる。従来の室内実験では、温度成層形成装置の方式や性能等の制約から、低乱れ、かつ1000K/mを超える大きな温度勾配を有する混合層は実現されておらず、数値計算においても乱流渦と成層効果の相互干渉を十分な分解能で予測し得るには至っていない。一方、二次元混合層や非成層条件下での物体後流に関する研究は多くあるが、大きな温度差が存在し、流体運動に対し浮力が能動的に作用する強安定成層流中における渦構造の生成過程や乱流輸送機構については十分に解明されているとは言い難い。

冷熱二線式温度流速計の単一のセンサを用いた一点計測では、温度勾配は時間平均値しか取得できず、エネルギー輸送の時系列変化を評価する上で必要となる瞬間値を求める為には、センサを鉛直方向に複数配置した多点計測を行う必要があった。しかし、従来のアナログ回路を基盤とする計測システムでは、多チャンネル化した各チャンネルにおける電気的特性のわずかな差異が空間構造の解明に障壁となることが明らかになっていた。

本研究の目的は、冷熱二線式温度流速計における温度・速度の同時計測アルゴリズムに必須となる同時相互補償系をデジタル化し、強安定成層流中における乱流生成や乱流輸送の解明に必要な温度・速度変動及び相関量の高精度計測が可能なデジタル二線式温度流速計を構築することである。

<研究設備>
  
 PXIシステム(科研費採択に伴い新規導入)

National Instruments社製
FPGAボード搭載 (Virtex-5ファミリFPGAチップ内蔵)
グラフィカルプログラミング言語LabVIEWによるシステム構築が可能

図1 PXIシステム(左)とFPGAボード(右)
 温度成層風洞

最大温度差 ΔΘ=150K (3m/s時)
局所最大温度勾配 ΔΘ/ΔZ|max=10,000K/m

図2 温度成層風洞
<本研究の特長>

これまで、高精度な温度と速度の同時計測には高価な設備や複雑な手順が必要であった。本研究では二線式温度流速計という計測器に着目し、従来はアナログ素子を基幹としていた計測器をデジタル方式で実現することで、高精度かつ操作性の良い計測器の開発を進めている。本研究の特長は情報・通信分野で広く普及しているFPGA(Field Programmable Gate Array)という電子デバイスを流体計測分野へ適用し、従来の手法では原理上困難であったデジタル化を達成していることである。

<二線式温度流速計について>

二線式温度流速計は抵抗線温度計と呼ばれる温度計と熱線流速計という速度計を組み合わせた計測器である。センサ部は、図3のように気流に対して前方が温度センサ、後方が速度センサとなっている。

 
図3 二線式温度流速計のセンサ部(I-Iプローブ)
図4 各種アナログ計測器
<FPGAについて>

FPGAはField Programmable Gate Arrayの略であり、内部の論理回路をプログラムで再構成可能な電子デバイスである。PCやDSPなどの一般的なデジタルデバイスでは原理上不可能な複数処理の完全並列実行が可能なことがFPGAの最大の特長である。PCやDSPとFPGAの処理方式のイメージを図5に示す。

 
図5 PCやDSPとFPGAの処理方式の違い

二線式温度流速計では、瞬時温度・速度情報に基づく同時相互補償が必須となるため、FPGAを採用した。

<各種補償系のデジタル化>
補償系のデジタルには、National Instruments社(NI社)が提供しているPXIシステムを使用した。図4のアナログ補償系と同等の役割を持つ補償系をFPGAチップに実装可能である。通常、FPGAのプログラミングにはVHDL等のハードウェア記述言語が用いられるが、本研究ではNI社が提供するグラフィカルプログラミング言語であるLabVIEWを用いて開発を進めている。LabVIEWの採用により、直観的なプログラミングが可能となっている。
<研究成果の概要>

強安定成層流中における熱・運動量輸送に及ぼす浮力効果の解明を目的として、気流の温度・速度の同時計測が可能な二線式温度流速計の高精度化を行った。本研究では、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて各種補償系をデジタル化した。抵抗線温度計用の周波数補償系では、フィルタ係数を逐次更新することで温度変動成分に対する高精度な補償を実現した。熱線流速計用の温度補償系では、平均流速U=3.0m/s、平均温度差ΔΘ=0~60Kの加熱気流中においても、正確な流速計測が可能となった。遅延補償系では、1.0~5.0m/sの流速範囲において、瞬時信号に基づいて温度信号を適切に遅延させることが可能となった。 本研究により、乱流生成や乱流輸送の解明に必要な温度・速度変動及び相関量の高精度計測が可能なデジタル二線式温度流速計が構築された。

<研究成果の詳細>
 デジタル位相補償系の構築

抵抗線温度計の利得は一次遅れ特性を有しているため、高周波成分まで計測するためには補償が必要となる。アナログ計測器では、一次進み特性を有するアナログフィルタを用いて利得を補償していた。

一般的なデジタルフィルタでは、一次進み特性を実現できないため、本研究では双一次変換を用いて一次進み特性を有するデジタルフィルタを構築した。構築した補償系の評価は、線形な温度勾配を有する流れ場中で温度センサを一定周期で鉛直方向に振動させる方法により行った(図6)。実験条件は以下のように設定した。実験結果を図7に示す。

実験条件
・非加熱時平均流速 U=3.0m/s
・センサへ印加した最大温度差 ΔΘ=10K
・0.01Hz時の振幅を基準に利得を評価

 
図6 抵抗線温度計の検定試験
 
図7 位相補償系の評価

図7から、未補償時(青)には一次の勾配で利得が低下していることが分かる。一方、補償時(赤)には、利得の低下が適切に補償されており、誤差が±1.0%以内に抑制されていることが分かる。これにより、抵抗線温度計の利得低下の適切な補償がデジタル方式で実現された。

 デジタル温度補償系の構築

熱線流速計は加熱したセンサ部を気流中に配置し、強制対流による熱損失をWheatstone Bridgeからの負帰還電圧で補完してセンサ部の温度を一定に保つ。そして、その負帰還電圧に基づいて流速を計測している。その為、温度変動場における計測では、気流温度に基づく補償が不可欠である。

従来のアナログ計測器では、実装上の制約から簡素な近似式を補償演算に採用していた。しかし、FPGAでは複雑な演算も実装可能であるため、従来は考慮出来なかった物性値の温度依存性を考慮した温度補償アルゴリズムを考案した。新たに考案した温度補償系をFPGAに実装し、以下の実験条件で評価した。評価結果を図7に示す。

実験条件
・非加熱時平均流速 U=3.0m/s
・検定温度差範囲 ΔΘ=0~60K
・抵抗線温度計からの温度情報に基づいた補償
・ピトー管の流速値に基づいて誤差評価

 
図8 温度補償系の評価

図8から分かるように、従来の温度補償アルゴリズム(青)では高精度に計測可能な温度範囲はΔΘ=0~40Kであったが、物性値の温度依存性を考慮した補償アルゴリズム(赤)では、温度差60Kまで、誤差が±1.1%以内に収まっており、従来の1.5倍の温度範囲において高精度な流速計測が実現された。

<謝辞>

本研究は科学研究費補助金(課題番号 21760139)の助成を受けて行われた研究の一部であることを記して謝意を表します。

<関連研究論文>
早苗, 大庭 “組込みデバイスの流体計測分野への適用に関する基礎研究”, 日本高専学会誌 Vol.16 No.3, (2011), pp.57-62.

早苗, 大庭 “温度流速計用の温度補償アルゴリズムに関する研究”, 沼津工業高等専門学校研究報告第45号, (2011), pp.113-118.

遠山, 大庭, 小谷田 “FPGAによる抵抗線温度計用の周波数補償システムのデジタル化”, 沼津工業高等専門学校研究報告第44号, (2010), pp143-148.
<学会発表・国際会議>
2011年7月 ASME-JSME-KSME Joint Fluids Engineering Conference 2011
S.SANAE, K.OHBA 「DIGITALIZATION OF HIGH ACCURACY THERMO-ANEMOMETER FOR HEAT FLUX MEASUREMENT IN STRATIFIED FLOW」

<学会発表・国内会議>
2011年11月 第54回自動制御連合講演会
伊井, 大庭 「FPGAを用いた熱流体用計測システム用の相互補償系のデジタル化」

2011年9月 日本機械学会2011年度年次大会
伊井, 大庭, 早苗 「デジタル動的補償系による熱流束計測システムの構築」

2011年9月 日本流体力学会年会2011
早苗, 大庭 「熱流体計測用の動的補償システムのFPGA実装」

2011年3月 日本機械学会東海支部第60期総会講演会
伊井, 早苗, 大庭 「成層乱流場用の熱流束計測系のデジタル化」

2011年1月 第16回高専シンポジウムin米子
早苗, 大庭 「異分野融合による温度・速度同時計測システムの開発」

2010年12月 富士山麓アカデミック&サイエンスフェア2010
早苗, 大庭 「組込みデバイスを用いた熱流体計測システムの高精度化」
 発表詳細  ポスターセッション優秀賞受賞

2010年11月 第8回日本流体力学会中部支部講演会
伊井, 早苗, 大庭 「乱流熱流束の高精度計測に向けたデジタル温度流速計の構築」

2010年10月 第88期日本機械学会流体工学部門講演会
早苗, 大庭 「熱流体用のデジタル計測システムにおける動的補償システムの高精度化」
 発表詳細  優秀講演表彰受賞

2010年9月 日本流体力学会年会2010
大庭, 伊井, 早苗 「熱流体計測システムにおけるデジタル動的補償システムの構築」

2010年9月 日本機械学会2010年度年次大会
早苗, 大庭 「FPGAを用いた温度・速度同時計測システムのデジタル化」

2010年8月 日本高専学会第16回年会講演会
早苗, 大庭 「組込みデバイスの流体計測分野への適用に関する基礎研究」

2010年3月 日本機械学会東海支部第59期総会講演会
遠山, 大庭 「瞬時温度情報に基づく熱線流速計用デジタル補償システムの構築」

2010年3月 東海学生会第41回学生員卒業研究発表講演会
早苗, 大庭 「熱線流速計における温度補償法に関する研究」

2010年1月 第15回高専シンポジウムinいわき
伊藤, 大庭 「FPGAによる熱線流速計用の温度補償系のデジタル化」

2009年12月 富士山麓アカデミック&サイエンスフェア2009
大庭, 遠山 「高周波域における温度変動計測用の動的補償システムのデジタル化」
 発表詳細  ベストポスター賞受賞

2009年12月 富士山麓アカデミック&サイエンスフェア2009
大庭, 伊藤 「FPGAによる熱線流速計用デジタル温度補償システムの開発」

2009年10月 日本流体力学会第7回中部支部講演会
大庭, 遠山 「熱流体用の温度・速度同時計測システムのFPGA実装」

2009年9月 日本機械学会2009年度年次大会
大庭, 遠山 「FPGAによる抵抗線温度計用の動的補償システムのデジタル化」

2009年1月 第14回高専シンポジウムin高知
遠山, 大庭 「FPGAによる抵抗線温度計の周波数補償系のデジタル化」

2008年3月 第39回学生員卒業研究発表講演会
小谷田, 大庭, 蒔田 「FPGAを用いた抵抗線温度計用デジタル補償系の開発」
 発表詳細  Best Presentation Award受賞

2007年12月 研究開発・ものづくりシンポジウム2007
大庭, 小谷田 「デジタル温度流速計の開発」
 ベストポスター賞優秀賞受賞

Copyright(C)2013 OHBA Lab. All rights reserved.